想いをつなごう。その人の、その先へ。ダスキン60周年記念

社長 × 社外取締役 座談会

代表取締役社長執行役員 大久保 裕行/社外取締役 関口 暢子/社外取締役 辻本 由起子/社外取締役 武藏 扶実
代表取締役
社長執行役員
大久保 裕行
社外取締役
関口 暢子
社外取締役
辻本 由起子
社外取締役
武藏 扶実

コーポレート・ガバナンスの更なる強化を図りつつ、中長期にわたる持続的成長に向けた課題に一つひとつ真摯に対処してまいります。

今回、大久保社長と3名の社外取締役で経営課題に対する意見交換の場を設けました。取締役会の実効性評価をはじめ、「中期経営方針2022」に関する課題、長期的な視点での経営に対する提言などについて、社外取締役の方々から忌憚のない意見があがりました。
当社では、社外取締役からの貴重なご意見を真摯に受けとめ、指摘された課題に関して一つひとつ確実に対応していく考えです。それによって、コーポレート・ガバナンスを更に強化していくことで、企業価値の一層の向上に努めてまいります。

開かれた取締役会である一方、全社的な視点からの議論が課題

大久保
社外取締役の皆さんからは、ご経験や専門的な知見をもとに率直なご意見をいただければ幸いです。テーマとしましては、取締役会の実効性評価をはじめ、「中期経営方針2022」の進捗、サステナビリティ経営の課題、そして社外取締役としての今後の抱負について、お考えをお聞かせください。まずは一つ目の取締役会の実効性評価について、社外役員会議議長ならびに取締役評価検討会議長を務めている関口さんからご意見をお願いします。
関口
これまで約4年、社外取締役として取締役会に出席する中で思うことは、自由な雰囲気のもとで議論を行えており非常に「開かれた取締役会」であるということです。このほか、経営戦略会議などにも出席していますが、議論の内容が年々進化していると感じています。今後は立案部分の議論の進化に加え、経営戦略や年度計画に対する振返り・評価もしっかり行うことにより、次につなげていく議論もより充実させることが重要と考えます。
大久保
開かれた取締役会ということですが、更に取り組むべき点はありますか。
関口
多岐にわたる事業経営について、資本効率性を意識し全社俯瞰的な視点から議論をしていくことにもう少し時間を割いてもよいのではないでしょうか。重要案件に対する個別の議論も重要ですが、社内の方は担当分野をお持ちなのでどうしてもそちらに偏りがちです。ここ数年「取締役会の実効性に関する取組み」の中で上げている事業ポートフォリオの選択と集中について一歩踏み込んだ議論を進めるためには、社外・社内に限らず取締役の一人として組織横断的な議論により多くの時間を割き、それを継続的に行うべきだと考えます。
大久保
ご指摘の通り、各事業に関する議論は活発である一方、会社全体を俯瞰した戦略や投資に関する議論が更に必要かもしれません。辻本さんはいかがですか。
辻本
関口さんの意見と同様に、私も取締役会に関しては社外取締役の意見をオープンに聞いていただき、発言もしやすい環境であり、社内、社外を問わず、活発に議論ができる取締役会になっていると思います。ただし、関口さんが指摘する通り、現状、事業部単位の議論が多く、その際に全社的な視点がやや欠けている場合もあるように思います。事業部だけではなく、コーポレート部門の中でも役割分担はきちんと整理されていますが、今までにない新しい事が続々と起こる時代、縦割りに陥らず、広い視野で柔軟に対応していくニーズがより増えていくと思います。取締役会として、全社的な観点から議論を続けていければと思います。一方で、海外事業やM&Aなど新しい分野に向けた取り組みは着実に進んでいます。いずれもKPIを踏まえた議論を深めていく必要があります。
大久保
全社的な観点から事業ポートフォリオのあり方について、もっと議論を進めていくべきということですね。続いて、武藏さんはいかがですか。
武藏
就任して1年が経ちました。当初はわからない事がたくさんありましたが、取締役会前の事前説明はもちろん、詳しく知りたいことは担当部署の方から個別説明もして頂き、会社状況への理解が進みました。丁寧な対応に感謝しています。取締役会は発言し易く、社外取締役の意見をよく聞いて下さり、開かれた実効性の高い取締役会であると感じています。
座談会に臨むにあたって、過去2年の統合報告書を読み直し、取締役会が進化してきたことを再認識できました。今後は深掘りのほうの「深化」も必要です。資本政策や人事政策など全社横断的なテーマについて、社内取締役の方々との議論を深めたいと思います。
また業績のフォローでは、経営環境が目まぐるしく変化する中で実績が予算通りに進捗しないケースも出てきますが、良い意味で数字にこだわり、スピード感をもって予算にキャッチアップしていく姿勢が大切だと考えます。
辻本
社外取締役 辻本 由起子
KPIに関してはかなり進んでいると理解しています。今は売上、利益等ビジネスの結果に対するKPI が主ですが、今後は更にそのKPI を構成する要素に対して、KPIを達成するための必要十分な目標を立て、トラックしていくことにより、より積極的にPDCAを回していけるのではと感じています。

お客様の「リアル体験をさらにリッチにする」取り組みが重要

大久保
続いて、「中期経営方針2022」の進捗についてご意見をお願いします。特に「事業ポートフォリオの変革」をより具体的に進めるためにはどのような課題をお持ちでしょうか。
辻本
ダスキンとして事業ポートフォリオを考える上で重要なことは、提供する商品やサービスに対して、お金を払っていただいているエンドユーザーがどんな方かということです。そして、どのような商品やサービスを提供すれば、その方々の暮らしが良くなるのか、喜びにつながるのか、という観点から事業のあり方を考えていくのが有効だと思います。ひとくちにエンドユーザーといっても年齢や住んでいるエリア、ライフスタイル、可処分所得なども異なるため、「対象とするお客様(Who)」を中心に事業を考えるという視点があってもいいと思います。誰に対しての商品、誰をターゲットにしているのか、ターゲティングが鋭ければ鋭いほど結果的に良い「商品・サービス(What)」ができて、ビジネスの成果にもつながります。そこをもう少し掘り下げできればと考えています。
大久保
対象となるお客様をより明確にした戦略は重要です。お客様の範囲として家庭市場の中にも、事業所市場の中にもセグメントがあり、そのセグメントに対して単一の事業を展開するのか、関係会社も含めた複数の事業で対応すべきなのか。そうしたマーケティングや事業評価も今後考えていく必要があるかと思います。武藏さんはいかがでしょうか。
武藏
事業ポートフォリオの変革では、フランチャイズ加盟店との協業も視野に検討することが重要と考えています。大久保社長は本部と加盟店について「不二(二つとない)の関係」と表現されていますが、加盟店と共に築いて来た無形の資産こそ、当社のコアコンピタンスではないでしょうか。この強みをどうやって更に活かすかを踏まえて、事業ポートフォリオの変革に取り組みたいです。
訪販とフードは異なる事業領域ですが、お客様の中にはドーナツを召し上がり、モップも利用される方がいらっしゃるはずです。どちらもダスキンのお客様ですから、商品やサービスをワンパッケージでご利用頂き「便利だな」と身近にダスキンを感じていただけるよう、お客様に対して領域を超えたアプローチができたら良いと思います。
大久保
事業ポートフォリオの変革の中では、キーワードになるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略です。このデジタル技術を活用していくことで、CX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)の価値を高めることができると思います。これまで購入時の体験については、訪販もフードも対面できる事業モデルなので、十分な対応ができていると思いますが、購入前、購入後の顧客体験を高めていくことが今後の課題です。この課題に関して、ご意見はいかがでしょうか。
辻本
大久保社長がおっしゃるように、ダスキンはリアルな対面の良さが強みです。そこにDXを上乗せしていくことによって、リアルでの体験をよりリッチにできるはずです。訪問販売にしても、店舗での販売サービスにしても、お客様とのタッチポイントを変革していく必要があると思います。
大久保
なるほど「リアル体験をリッチにする」とはいい言葉です。デジタル技術を活用しながらお客様目線での体験をよりリッチにしていくということですね。
関口
ダスキンが事業を展開する中でのデジタルの活用には2つのポイントがあります。1つ目は進化したツールを使ってビジネスプロセスをどのように進化させるかという点です。今までは人の手を介し、非常に手間が掛かっていたことも、データを活用することによって処理速度が上がり、今までは1対1の接点でしかなかったものが、情報のデータ化によって限りなく対象を広げることが可能になります。それにより、まずはCX 向上につながるビジネスプロセスを考えなければいけません。
2つ目は、AI 音声認識や生成型AI などの新しい技術をどのように活用していくかという点です。例えば、訪問販売員がスマートフォンの音声入力で登録した情報とお客様の情報がすべてデータ化されマッチング機能などの利活用により北海道のお客様が沖縄の販売員との会話を可能にし、「楽しい」という体験の機会が生まれるかもしれません。そこでは商品を売るだけでなく、コト消費の観点から付加価値を高めていくことが可能になるかもしれません。そこには新しい技術の力が不可欠です。
大久保
現状、DXというと生産性やCX の向上が前提ですが、リアルとの融合によってビジネスモデル自体の変革をどう図るかということですね。また、「中期経営方針2022」では海外展開も課題の一つでありますので、この点は豊富な海外経験をお持ちの武藏さんからご意見をお聞かせください。
武藏
社外取締役 武藏 扶実
新たな成長機会への投資についてですが、日本では人口減少や高齢化が進む中で機会を捉えていかなければなりません。他方、世界には成長を続ける国々があり事業機会は拡大しています。海外事業はこれまで以上に積極的な展開を検討する余地がある、と考えています。
ただし、フランチャイズというビジネスモデルにおいては、現地パートナーとの良好な関係構築が必須です。当社ではアジアを中心に事業を展開していますが、さまざまなルートを駆使して信頼に足るパートナーを探し協業することがポイントになります。海外事業促進の面でサポートしたいと思っています。
大久保
ミスタードーナツのシンガポール新規出店をはじめ、台湾ではダストコントロール事業だけでなく、家庭向けお掃除サービスを新規導入するなど、「トータルクリーンケア」が海外に広がりつつあります。今後、これらを一体となって手掛けていくことで、ONE DUSKINとしての価値はさらに進化していると考えています。

事業ポートフォリオの変革に向けた人材の育成が重要課題

大久保
次に長期的観点から持続的成長に向けてご意見をお願いします。サステナビリティ経営に関する課題は多岐にわたるため、ここでは「経営基盤の構築」に重点を置いてお伺いします。
関口
社外取締役 関口 暢子
サステナビリティ経営に関しては、非常に重要な課題ですが論点が多く、企業として様々な対応が求められている状況かと思います。「経営基盤の構築」という観点からは、社会価値と経済価値のバランスのとれた枠組みを作っていくことが重要と考えます。とくに、女性活躍推進等をはじめとする人材活用に関しては、数字合わせの施策であってはならず、適材適所を意識しながら多様な価値観や能力を持った人たちが最大限能力を発揮できるような評価基盤の構築を期待しています。
現在、ダスキン社内にて人材ポートフォリオの検討が進んでいます。こうした取り組みを積み重ねていくことで、ダスキンにふさわしいダイバーシティ&インクルージョンを目指すべきで、結果として企業の競争優位性につながっていくものと考えています。
辻本
サステナビリティ経営に関しては、環境問題にしても人的資本経営にしても、社会における義務だからやらないといけないということではなく、それをビジネスの機会にできないかと考えています。
ダスキンはモップやマットを使い捨てにするのではなく、リユースするという環境にやさしい事業を展開してきました。新しい時代のサステナビリティに対するコミットメントを考えたとき、ダスキンの強みを生かしつつ、さらに進めていくことで、ビジネスの機会に結びつけていくことができるはずです。
企業の責任として、環境に対しての投資は必要です。それがビジネスを成長させ、さらに環境に好影響を与えるという循環を生み出すことができないかと考えています。差別化マーケティングにおけるポイント・オブ・パリティ(POP:商品やサービスの基本的な機能や特徴)とポイント・オブ・ディファレンス(POD:他社とは異なる差別化ポイント)をしっかり分け、最低限追求しないといけないPOPと、「ダスキンの強みはここ」というPODをどう考えていくかが、サステナビリティ経営を推進していく上で重要だと思います。また、人的資本経営に関しては、DX への適応や新たな価値創造のための学びという意義において、中高年を対象としたリスキリングが必要なのかもしれませんが、それ以上に若手をどうやって育成していくのか、若い人たちにどうやって経営のマインドを持ってもらうかというところに投資することが、非常に重要だと思います。
武藏
人材について、若手の皆さんにはどんどんチャレンジし成長してほしい、という方針ですけれど、「失敗したらどうしよう」とチャレンジに二の足を踏む面があるのかもしれません。成果には報奨があり、失敗には責任を取ることが必要です。しかし一度失敗したからといって何もかもが否定されるのではなく、次の敗者復活の機会があって挑戦できるのが健全な組織です。失敗事例を全社で共有して同じことを繰り返さない、というマインドを醸成し続けることも欠かせません。若い皆さんが一歩を踏み出しやすいプラットフォームを整えていくことが重要と考えます。
大久保
代表取締役社長執行役員 大久保 裕行
当社の今後の成長には、事業ポートフォリオの変革に必要な人材の多様性確保が欠かせません。例えば、ミスタードーナツ事業の場合、若い世代の社員が商品開発をはじめ、SNSやウェブコミュニケーションなどで活躍しています。一方ベテラン社員の多くは加盟店を指導するエリアマネジャーの役割を担っており、適材適所がうまく機能していると思います。今後、全社規模で人材の多様性を促進し、事業ポートフォリオの変革に向けた人材育成を進めていきたいと考えています。

社外取締役として企業価値の向上をめざした提言に努めていく

大久保
では最後に、社外取締役としての今後の役割や使命についてお聞かせください。
武藏
中期経営計画を着実に進め、少しでも目標を前倒しで達成できるように、社外取締役の立場から出来る限りのサポートをしていきたいと思っています。その中で特に、自身が海外事業に長年携わってきたことから、ダスキンの海外展開に関する提言や議論の深化に力を尽くしたいと思います。
辻本
現在、中期経営方針および長期戦略の策定に向けた議論に参画していることから、長期の視点からダスキンのあるべき姿に向けて貢献できればと思っています。また、神戸市における人材獲得、人材育成、前職でのマーケティングの経験等を踏まえて、ダスキンの企業価値向上に貢献できればと思っています。
関口
社外取締役として5年目を迎えて、求められる役割がさらに重くなっていることを実感しています。その中の取締役の重要な役割として、さまざまなステークホルダーの期待を理解し、企業価値を上げることは非常に意識をしています。
最後に、ダスキン事業としてはまだまだポテンシャルを感じます。訪販グループでいえば、現状は家庭市場と事業所市場が中心ですが、これ以外にも広がる領域として、学校教育の領域などはその一例です。ぜひ未開拓の領域を果敢にチャレンジしてほしいと思います。単に掃除に関するサービスを提供するのではなくて、喜びのタネまきとして、掃除という文化を国内外に広げられるのであれば、これがダスキンの企業価値の向上につながるものと考えます。
大久保
今回、社外取締役の方々から様々なご意見をいただきました。皆様のご意見を経営に反映させていくことで着実に企業価値を向上させていきたいと思います。今後もぜひ忌憚のないご意見をお願いいたします。