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公衆衛生の基礎知識

公衆衛生の基礎知識

公衆衛生について正しく理解するためには、細菌やウイルスなどに関する知識を得ることが大切です。ここでは公衆衛生の近代史や、人体に使う「医薬品」「医薬部外品」と物品などに使う「雑品」の違い、「医薬部外品」と「化粧品」の違い、「殺菌」「除菌」「抗菌」それぞれの意味、細菌とウイルスの違いなど、法令で定められた用語の定義をわかりやすく紹介しています。

■ 製品区分と細菌・ウイルスに対する作用の関係(真菌を除く)
医薬品

病気を治療する薬のことで、
厚生労働省に認可されたもの。

医薬部外品

医薬品より効能が穏やかで、
予防や衛生を目的にしたもの。

化粧品

医薬部外品より効果が穏やかで、
肌や髪などを健やかにするもの。

雑品

薬機法上の規定がなく、医薬
部外品でも化粧品でもないもの。

消毒

菌を死滅または除去させて、
毒性を無毒化すること。

殺菌

菌の種類や数量は問わず、
菌をある程度殺すこと。

除菌

清浄度を高めるために、対象物の
菌やウイルスの数を減らすこと。

抗菌

菌を死滅・減少させるの
ではなく、菌の繁殖を防ぐこと。

減菌

菌の数量を減らすことで、
主に医療用器具に使われる。

制菌・静菌

制菌は、有害細菌が増殖しないレベルに抑制すること。
静菌は、菌を殺すのではなく、増殖を抑えて菌を減らすこと。

抗ウイルス

ウイルスの構造を破壊して、
感染力を失わせること。

抗ウイルス

ウイルスの構造を破壊して、
感染力を失わせること。

■ ウイルス・細菌・真菌の大きさの違い

1. 近代の公衆衛生の歴史

太古の昔から繰り返されてきた感染症の流行。人間はその度に医療や科学、政治によって菌やウイルスと戦ってきました。ここでは感染症を通して、日本を中心とした時代の動きやダスキンのあゆみとともに公衆衛生の歴史をひも解いてみましょう。
※代表事例を取り上げています。

① 明治時代から大正へ

② 戦前から戦後復興期

③ 高度成長期からバブル崩壊

④ 平成から令和へ

2. 衛生に関する用語の定義

① 医薬品・医薬部外品・化粧品・雑品

薬機法などによって分類されている医薬品・医薬部外品・化粧品・雑品

人体に使用する製品(医療機器は除く)は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」)」によって「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」に分類されています。また、洗剤など、清掃に使用する「雑品」と呼ばれるものの中にも菌やウイルスに作用するものがあり、その違いは「有効成分の効果と目的」です。ここではそれぞれの定義をみてみましょう。

病気の治療を目的とする医薬品

「医薬品」は、病気の治療を目的とする薬のことで、配合されている有効成分の効果が厚生労働省より認められたものです。医師が処方する医療用医薬品と、ドラックストアなどで購入することができる風邪薬・胃腸薬・鎮痛剤・滋養強壮剤などのOTC医薬品※に分けられます。

※Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)の略語で、対面販売によって買うくすりを意味しています。これまでは大衆薬や市販薬と呼ばれてきました。

予防や衛生を目的とする医薬部外品

「医薬部外品」は、厚生労働省が認める有効成分が一定の濃度で配合されていますが、医薬品とちがって治療ではなく予防や衛生を目的に作られたものです。体に対する作用の強さは医薬品に比べて穏やかで、医薬部外品のスキンケア製品を「薬用化粧品」と呼ぶこともあります。

清潔・美化・健やかに保つための化粧品

「化粧品」は、医薬部外品よりもさらに成分の効果が穏やかなもので、「体を清潔・美化し、魅力を増し、皮膚や毛髪を健やかに保つために」使用されるものと定められています。各種スキンケア、ヘアケア、メイクアップ製品などが該当します。

医薬品でも医薬部外品でも化粧品でもない雑品

「雑品」は、薬機法上の規定がなく、医薬品でも医薬部外品でも化粧品でもないものです。代表的な製品としては、浴室用洗剤やカビ取り剤、台所用洗剤、衣料用漂白剤などが挙げられますが、医薬部外品と同じような成分が配合されていても、人体への効果や効能を表現することはできません。

② 菌に対する薬品・薬剤の作用について

製品によって使える用語が違う消毒・殺菌・除菌・抗菌の定義

菌に対する表現には、「消毒」「殺菌」「除菌」「抗菌」などがあります。このうち「消毒」「殺菌」は、法律によって効果が認められた医薬品または医薬部外品にしか使えません。一方、「除菌」「抗菌」という言葉には法律による規制がなく、洗剤などの雑品にも使えます。これらの用語の違いをご紹介しましょう。

消毒 菌を無害化する

菌を死滅または除去させて、害のない程度まで減らしたり、感染力を失わせたりして、毒性を無力化させることをいいます。「消毒」も「殺菌」も薬機法の用語ですが、消毒の手段として殺菌が行なわれることもあります。ただし、病原性をなくす方法としては殺菌以外にもあるので、「滅菌」とも「殺菌」とも違うという意味で使い分けがされています。

殺菌 菌をある程度殺す

文字どおり「菌を殺す」ことです。対象となる菌や殺した程度は含まないため、一部を殺しただけでも殺菌といえます。したがって、厳密には有効性を保証するものではありません。この用語は、薬機法の対象となる消毒薬などの「医薬品」や、薬用石けんなどの「医薬部外品」で使うことはできますが、洗剤や漂白剤などの「雑品」には使用できません。

除菌 菌の数を減らす

「菌の数を減らす」ことで、清浄度を高めるという意味です。洗浄やろ過などの方法は各分野でさまざまな意味づけが行なわれており、それぞれで程度の範囲を示しています。たとえば、洗剤・石けん公正取引協議会の定義では、「対象物から増殖可能な細菌を有効数減少させること」となっていますが、この細菌にはカビや酵母などの真菌類は含まれていません。

抗菌 菌の繁殖を防ぐ

「菌の繁殖を防ぐ」という意味です。菌を殺したり減少させたりするのではなく、繁殖を防止するという考え方なので、対象となる菌の種類やその程度は含みません。経済産業省の定義では抗菌の対象を細菌のみとしているため、抗菌仕様製品ではカビ、黒ずみ、ヌメリは効果の対象外とされています。JIS規格でその試験法を規定しています。

器具の菌を完全に殺す「滅菌」について

すべての菌(微生物やウイルスなど)を死滅させ除去することで、厚生労働省では微生物の生存する確率が100万分の1以下になることを「滅菌」と定義しています。しかし、現実的には人体ではあり得ない状況(たとえば人の手を滅菌するには、人体の細胞ごと殺さなければならない)であり、主に手術用器具や注射器、ガーゼといった医療器具などに対する用語として使われます。

3. 細菌とウイルス

感染症は、病原体というウイルスなどや微生物によって引き起こされます。主な病原体としてはウイルス、細菌、真菌(カビ)などがありますが、ここでは細菌とウイルスについて理解しましょう。

① 細菌とウイルスのちがい

大きさ・構造・性質などすべて異なる細菌とウイルス

「細菌」と「ウイルス」は、人の健康に影響を与える病原微生物の代表的な存在です。細菌とウイルスはよく混同されますが、大きさや構造、性質はまったく異なります。

細胞を持ち、細胞分裂で
増殖する生物 細菌

細菌は、一つの細胞しか持たないので単細胞生物と呼ばれる微生物です。細菌は栄養源さえあれば、自分と同じ細菌を複製して増えていくことができます。
人の生活に有用な細菌(納豆菌など)も存在する一方、人の体に侵入して病気を起こす有害な細菌もいます。人に病気を起こす細菌として、大腸菌や黄色ブドウ球菌、結核菌などが知られています。抗菌薬(抗生剤、抗生物質)は細菌を退治するための薬です。

細胞がなく、自力で増殖できない

ウイルスは、細菌の10分の1~50分の1程度の大きさで、細胞を持たず自力で増殖することができません。人や鳥など生物の体にウイルスが侵入すると、細胞の中に入って自分のコピーを作らせて、さらに他の細胞に入り込み増えていきます。 人に病気を起こすウイルスとして、インフルエンザウイルス、ノロウイルスなどが知られています。ウイルスは大きさや仕組みが細菌と異なるので、抗菌薬(抗生剤、抗生物質)は効果がありません。

② 抗ウイルスとは

構造を破壊して感染力を奪いウイルスを不活化させること

抗ウイルスとは、ウイルスを不活化することです。細菌の増殖を抑制する「抗菌」と違い、ウイルスの外部組織を破壊することで、生物の細胞に侵入して増殖する機能(感染力)を失わせ、活動を停止した状態にします。一般的な方法としては、アルコール(エタノール)や次亜塩素酸ナトリウムや界面活性剤を含む消毒剤によって不活化を行います。
ウイルスは脂質でできたエンベロープという二重膜を持つ「エンベロープウイルス」と、エンベロープを持たない「ノンエンベロープウイルス」に分けられます。エンベロープはアルコールに弱い性質のため、エンベロープウイルスに対してはアルコールを含む消毒剤による不活化が有効です。一方、脂質膜を持たないノンエンベロープウイルスはアルコールに対する耐性が高いため、次亜塩素酸ナトリウムを主成分とする製品による不活化が有効とされています。

4. さまざまな感染経路

人から人にうつる感染症の感染経路は、主に「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」の3つが考えられます。他にも、経口感染、媒介感染、血液感染、母児感染などがあります。

人から人にうつる感染症は主に3つの感染経路から
人や物に触れる
ことによる接触感染

接触感染は、感染している人の皮膚や粘膜に触れたり、病原体が付着したドアノブや手すりなどの物に触れたりした手で、自分の鼻や口を触れることで感染することをいいます。

咳やくしゃみの飛沫による

飛沫感染は、咳やくしゃみ、会話で飛び散った飛沫に含まれる病原体を吸い込んで感染します。飛沫は水分を含み重いため、届く範囲は2メートル程度といわれています。

空気中を浮遊する病原体による

空気感染は、感染している人の口から発された飛沫に含まれている病原体が空気の流れに乗って拡散し、それを吸い込むことで感染するケースです。他の感染経路と比べて少ないといわれています。